黒と赤を纏った殲滅リーチェのことを考える。息のきれいな39℃の呟き。あのころはスペースとリタリンを二人で分け合っていた。ごちゃごちゃとした粗雑なレイヴハウス。窓ガラスの砂塵が吹き飛んだ後のレバノンのホテルのような夜。皆は床の上でスピード漬けになった中枢神経をさらして眠るただの子供だった。モニターのPVではデビッド・バーンの顔がぐるぐる回る。君はゆっくりと起き上がり金髪の鬘を取り、フィッツジェラルドが囁くイミテーションの繁栄を踏みにじった。ハウスを出た君のシボレーK型のエンジンに世紀末の灯が点っていたっけ。アウトバーンに出るともうそこはレンヴィッカも描かないベルリンの夜明けだ。カー・ラジオを捻れば流れてきたのはサロメの愛した海岸にサマードレスを脱いで溺れ行くクライム・アンド・ザ・シティソルーション。たかがオールディーズ。殲滅リーチェは闇雲に夜明けを疾走する。失うことと生き延びることは等分の運命のファンタジーだ。もう何も告げない。もう何も明かさない。彼女は透徹したリアリティーの衛星しか愛さない。君に出会えない、こんな勤労スカトロジアな都市のジェノサイド。救いではなく、祈りでもなく、詩を告げる、天上の神ではない、君に、君の石炭色の巻き毛、伏せ目がちなその漆黒の瞳。













いつか見た屋上へ行ってみる。
あたしが生れ落ちた屋上へ。
海からの巡礼者に髪をたなびかせていたその至高聖所に佇んでいた、ただの「あたし」の中に、あたしがいた。


経血は、重力で、
あたしの嘘が、あなたを9月の雨に凍らせた。


あなたはいつも観念的なアジトに潜む。
ひ弱な子供、いたいけなシンジケート、イメージコードに揺れる銃座を据えた赤色兵士。


あたしは、あなたのマジノ線に挑まない。
紙袋の爆弾が炸裂した混乱する広場のオープンテラスであなたを売った。


都市のヴィジュアル・フローの中であたしを探すあなたのモニターに、
わたしは北京に向かう軍用トラックからなけなしの微笑のmpg映像を転送しよう。


あたしと、あたしたちの世界の凝結した渾沌にあなたはフリーズされる。


あたしは覚醒した新生児のようなCUEを待ち望む。


それがたとえあなたが選び出すことを拒む世界の果てであったとしても。





























レトロウイルスの殺戮が始まったワルシャワの
場末の地下Barで僕たちは奇妙で不貞な言葉
殺しに興じていた。殺戮の戦況について話し合
っていたのだ。ジンを交し合い、ジタンを吹かす
煙の中。君だけが怯えていた。君はパリのホテ
ルで別れてきた男の残した言葉について語って
いた。まるで原子力衛星の落下する週末の世界
の終りを予言するかのように。君にとっては全て
の黙示録、もはや帰ってこないあの言葉が君を
虚ろな試験管胎児にする。


やがて戦闘が終わり、生きて帰ってくるならば。
僕がインスピレーションの詩心を信じるならば。


君と僕を分け隔てる罪の落とし子。
予定調和に怯えながら僕は尋ねたのだ。


「君の温度が感じられない。君は一体どこにいるんだ?」


中央ステーションの爆撃が激しさを増した。
グラスがテーブルから落ちる。仲間の女が
失神する。モニターの首相が警告する唇を
痙攣させる。そんな戦慄を遠くに感じていな
がら君がゆっくりと告げたんだ。


「わたしはどこにもいやしない。わたしはただの殲滅リーチェ。それだけ」


一番罪深い半永久の眠りに世界が降下していこうとしていくその瞬間、
君の言葉はピグミー族の恋歌のように儚く切なげな染みに残った。












前髪を


執拗に


切り揃えるような


不安


人生は


積み重なった


パンケーキのよう


愛の 一つ


毛皮の アンニュイ


日溜りで


髪をすかしながら


からかう


コミューンの少年


ソファの上の選択権


プライドに跨り


短剣の発熱


もはや


気だるげに


冷めてしまった


求愛のシエスタ


考える。

































殲滅リーチェは哀れな金持ちの女の子だった。
殲滅リーチェは晴れ着のドレスを運河に投げた。
殲滅リーチェは15分間のフィルムを略奪したヒロイン。
殲滅リーチェは悶絶するスカトロジストに君臨する。
殲滅リーチェはモロッコでかどわかされた律動人形。
殲滅リーチェはサロンで踊れなくなったヒップな道化。
殲滅リーチェはペーパーバックのタイトルを乗り換えるPUNK Doll
殲滅リーチェはパルチザンの少年を裏切った。
殲滅リーチェは逆オリエンタルに溺れられた愛人。
殲滅リーチェはベッドサイドのBeauthy#2に暴かれた少女。
殲滅リーチェは誰も愛さないフレンチポップ・シングル。
殲滅リーチェはNYのアップタウンのことなんか知らない。
殲滅リーチェは時間をジンビームに沈める。
殲滅リーチェはバスルームのアヘンの火に未来をくべる。
殲滅リーチェはもはやリムジンの恋人へは帰らない。
殲滅リーチェはいつか君の衝動に刺殺されるだろう。
殲滅リーチェは誰かの憂鬱と道連れに死んだ。








世界はあまりにも世界はあまりにも世界はあまりにも世界はあまりにも世界はあまりにも
世界はあまりにも世界はあまりにも世界はあまりにも世界はあまりにも世界はあまりにも
世界はあまりにも世界はあまりにも世界はあまりにも世界はあまりにも世界はあまりにも
世界はあまりにも世界はあまりにも世界はあまりにも世界はあまりにも世界はあまりにも
世界はあまりにも世界はあまりにも世界はあまりにも世界はあまりにも世界はあまりにも












世界 






あまりにも






































笑っていた。


時々こうして涙が出るほど笑う。


恋人のことを夢見て。




苦痛の雨に横たわる
あたしのことが見えるかしら。
日々を走り抜けるハイウェイ。
何も省みたりしない。
いくつかの欲望の数式が
あなたを天気雨のテラスの向こうへと
出かけさせた。
病みゆくことと、
こだわりに溺れてゆくことが、
同じあたしの排泄であることを
霧のテラスの
芝生の上で突っ伏して知る。
・・・・・・あなたの重み。
すべてがありふれた頭痛で
あなたに「行って」と告げて
断ち切れない重力の淵に
あんなことは云って欲しくなかった
二度と戻れない場所。
開いたままの唇の中へ
そっと静かに注ぎ込む。




Hi,


あなたはいま
おうちにいない。


でも
あなたが メッセージを残していきたいのなら
音のトーンに向かって
話し始めて。




Hello,


こっちが あなたのお母さん。
あなたはいるの?
あなたはおうちへかえる?




Hello,


おうちには誰がいる?
そう、あなたは あたしのことを知らない。
でも、あたしは あなたのことを知ってるの。
あたしはあなたへ
いまメッセージを送ったわ。




そして
もうすぐ
真っ黒な飛行機が
空を覆い尽くす。












瓦礫の中のシアトルのホテルを出た後のことは思い出せない。僕はいま、ここオセアニアの広大な砂塵の下で夏の朝の成層圏を感じている。腐食しかかった肢体を投げ出し、聞いている、死に行くアボリジニのパーカッションを。神の観る視座を思いながら、あの不協和音な映像のことを思い出していた。包容の覆い尽くす空に意識を預けながら世界の因子に透過する宿命に目覚めた。彼女のことはその後知らない。探し出すことも、もはや、ない。白いなだらかな起伏と、蒼く覚めてゆく眼。僕はあの人を待っていた、世界の予定ではなく、僕とあの人を結ぶ、因果律が、少なくとも、救いのない、このような気持ちが。あなたは青白い肩をしなやかにむき出して眠っていた。破壊の未来をフィードバックするこの世界に生れ落ちてきた。愛するのではなく、死を投げやりに願おう。千人のあなたに、蹂躙されることを夢見て。やがて、こんな夢も、じきに、終わる。チェレンコフ光の粒子が、この星の全体を包みながら、臨終際へ寄り添いつつ、


静かに、ゆっくりと、
降下する、
認知され、
請われて訪れた、


無垢な、


祈り。




























やさしく    無残に      殺して     あげる






いつか   僕が   ボンネットの上で    臨終を迎えたら・・・・






執行猶予のあたしの体・・・・・
        

         瞬き程度の恍惚・・・・・・





生きのびた         君が


疾走する。


       終末の響きと隔絶した    緑色の斜陽の下




健康的に死ぬの。


      終わるのなら・・・・・


  今がいいなら・・・・・




              ぼくが、


          いま、


     ここ・・・・・・




待ちわびる・・・・・・



































だれか


殲滅リーチェを


知らないか?


















































































R.K に



























































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